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日々のメモ書き。

【徒然】ビブリオバトルin紀伊國屋書店新宿南店に参加

■おかしい。経歴書には「ビブリオバトラー国内チャンピオン」とか書いてるはずだったのに、結局去年は1回しか戦っていなかった(苦笑)

紀伊國屋書店新宿南店では隔月に近い間隔でビブリオバトルが実施されているので、毎回は無理でも半分くらいはテーマが合えば出場しようと思っていたのですが、私事が色々ありまして(汗)結局、10ヶ月ぶりの参戦となってしまいました。

で、今回もフリーテーマだったので申し込んだんですが、地獄のように本が多い引っ越しをした直後で前回チャンプ本になった『BEATLESS』の時みたいに原稿書いて声に出して練習してみる、とか全然できないまま2回目のビブリオバトルに参戦してきました。本はやはり国内SFの藤井太洋『オービタル・クラウド』。

で、結果、得票数同点の本があるという辛勝ではありますが、第一ゲームで『オービタル・クラウド』は見事チャンプ本に選ばれたのでありました。
ヴィクトリー!!!
実は何も準備はしてなかったといいつつ、開始30分前に話の元ネタを「メモ」として書きだせたので、それをここにアップしてみます。

藤井太洋『オービタル・クラウド』紹介

今日皆さんにご紹介する本は早川書房から、紙版と電子版同時発売になったテクノスリラー、藤井太洋さんの『オービタル・クラウド』です。
テクノスリラーってなんぞや?という人がいらっしゃるかもしれませんが、おおまかに2タイプあります。たとえば最近で言えばIPS細胞ですとか別の意味で話題になっちゃってるSTAP細胞なんかがメインテーマに置かれた小説が出てきたらどうでしょう?万能細胞研究してたら事故でゾンビが大量発生してしまった!みたいなのが一つ。もう一つは、私の青春時代というのは「米ソ冷戦」という絶対的な前提条件があってですね、CIAだのKGBだのが跋扈し、朝鮮戦争ベトナム戦争という代理戦争の退役軍人というオイシイ立場の人間を主人公にするだけで、すわ、全面核戦争で人類全滅の危機!という状況のフィクションを書くことができたんですね。それが一つ。ところが最近はソ連がなくなってすっかりその手の小説は減ってしまったのですが、実はまた読んでみたいと思っていたわけです。
そこに彗星のように、まさに私が読みたかった「少し未来に達成できるかもしれない科学技術」を主軸にした軍事・諜報の交錯するテクノスリラーとしてこの作品が登場したわけです。
この作品の美味しいところはその未来予想の上手さといっていいでしょう。現代が米ソ冷戦構造が解体してアメリカはテロと戦う、というなんだかわかりにくい構造の世の中になってしまったわけですが、最近スノーデンさんという元CIAの人がロシアに亡命したりして、実は陰謀だの諜報だのってのはまだまだ健在なんだ、と思い知らせてくれたところに、アメリカはテロとの戦い無人機による攻撃という、ちょっと前では考えられない兵器を投入していて未来戦争の様相を呈してるわけです。そういった「現代」の延長線上にこの作品のテクノロジーや組織関係が実に上手く乗ってくるわけです。登場人物紹介で書かれているのでいってしまいますが、今回、悪い人というのは北朝鮮だったりするんですね。アルカイダとかでなく北朝鮮なのは読んでみると実にしっくりきます。
狙われるのは国際宇宙ステーションとか、ベンチャー企業が開設した「宇宙ホテル」だったりするわけですが、テロリストの真の狙いは今我々が利用している人工衛星を全部使えなくする、という実は世界規模で迷惑な話なんですね。映画の「ゼロ・グラビティ」見た方なんかはわかると思うんですけど、衛星ってのは無重力でプカプカしてるものじゃないんですね、秒速8kmとかで落下し続けている世界、一触即発で大事故が起こる世界なんですね。そこで起きている「何が」を発見して食い止めるまでがスリリングに展開するわけですが、その描き方が実に上手い。
作者の藤井さんはソフトウェア開発の経験者で、私もSEなんですけど、生半可に技術知識があるせいか、すごくリアリティを感じる「攻め方」を北のテロリストは仕掛けてきます。<スターウォーズ計画>という80年代の遺物が実際に博物館から引っ張りだされてきたりするのも私なんかにはたまらないところですし、いわゆる「クラウド・コンピューティング」の技術を使えば実際に謎の現象「オービタル・クラウド」を作り出せるのかも、と思える説得力があります。
CIA構成員のステレオタイプな感じがまたグッときます。古いテクノスリラー読んできた身としてはCIAは所在地のコードネームで「ラングレー」と呼ぶんですが、911後には引越したんで「マクレーン」っていうんだ、というつまらないところに感心したりw
主人公とヒロインはしがないウェブ技術者でネットニュース配信をやってたりするんですが、たまたまJAXAやCIAの人とつながってその才能を発揮してこの脅威に立ち向かっていくんですが、謎のオービタル・クラウドの基礎技術を開発したイランの孤高の天才科学者の話や、テロを仕掛けてくる側の日本人の天才技術者の存在感もいい味出してます。しかし、なんといってもヒロインのスーパー・ハッカー、「あかり姐さん」の個性がすごいです、惚れますwある理由で敵の手を読みやすい位置にいるんですけど、彼女の活躍ぶりには爽快感を覚えますね。とにかく、物語全体の構成もさることながら、登場人物の個性が光ります。
というわけで、21世紀に楽しく読めるテクノスリラー『オービタル・クラウド』、是非手に取ってもらいたいですね。電子版でも!

■質疑応答

■たしかその本は電子出版で有名になって紙の本として出版されたと思いますが、どちらで読みましたか?
 →本作は電子媒体と紙は同時出版でした。おっしゃってるのは作者の前作『ジーン・マッパー』のことですね。作者の藤井さんは確かに最初に電子出版でそれを出して早川書房がそれを出版しました。自分は電子版を買ってiPhoneで読みました。作者の藤井さんのお話を聞いたことがあるのですが、執筆にiPhoneを使っているそうです。
※メモでは冒頭に云ってる話ですが、本の実物を紀伊國屋さんに借りられたので、タブレットに書影を映して電子版で読んだというアピールする作戦をすっかり忘れていました。
■ちょっと未来のこと、という紹介でしたが、今の社会とどういったところが違っているのですか?
 →実は先といっても6〜10年先のことで、あまりテクノロジー的に飛躍的に進んです部分はないです。<オービタルクラウド>現象についても、技術的には80年代に発表された理論で動いている、といった感じです。なので、「本当にできそうかな?」という気にさせてくれます。
■その作品の舞台はどこなのかと登場人物は何人なのか教えていただけますか?
 →話し忘れていました。冒頭に登場人物紹介に書いてあるので云ってしまいますが、今回テロを起こすのは北朝鮮です。それを日本でしがないウェブニュース(笑)をやってる連中が偶然発見して阻止する、という流れです。
※実はしゃべりをとちっていたので、北朝鮮というワードがぬけていたのですw

今回のしゃべりのトチりは前回よりも激しくて、電子媒体同時出版とか北朝鮮とか、重要な部分を質問コーナーでフォローさせていただく恰好になり、大変質問がありがたかったです!(苦笑)
前回の『BEATLESS』の時も時間が足りなくて、SF周辺状況、みたいなのバッサリカットしたんですけど、今回はテクノスリラーとはなんぞや?という説明に時間を使っています。それでも時間が足りなくて、5分という時間、長いようで短くて本当に苦労しました。
次回の参加予定は未定です、で約一年経ってしまったのですけど、テーマに沿ったSFが紹介できそうな回があったらまた参加したいと思ってます。