u-kiのwebスティッキーズ

日々のメモ書き。

【徒然】SFセミナー2012に参加

SFセミナーの合宿企画、SFファン交流会の出張版が主催する「ビブリオバトル・イン・鳳明館」に参加してきた。
テーマは「進化」。俺はポール・アンダースン『脳波』でバトルに挑んだのであった。
事前に「u-kiの読書日記」形式で話すネタを考えてみたんだけど、仕事の都合で事前準備する暇がなくなってしまい、結局はそのメモを元にぶっつけ本番でしゃべってきた。
で、結果として見事『脳波』はチャンプ本に選ばれたのであった。ヴィクトリー!!!
せっかくなので、話す元ネタにした「感想」と実際に行った「紹介」の文章をここにアップしてみた。

ポール・アンダースン『脳波』紹介

皆さんが持ってる進化ってどんなイメージですかね?
ポケモンピカチュウライチュウになる、みたいな生物学的なもんでしょうかね?
個人的にはチンパンと人の違いって頭が良いか悪いかみたいなのだけじゃね?という、デヴィッド・ブリンが<知性化シリーズ>で描いてるテクノロジーによる知識の底上げみたいのも「進化」といえるんじゃないかと思うのです。
そこで今回紹介するのは、ちょっと古いSFでここに居る皆さんの中には読まれた方もいるかと思うのですが、ポール・アンダースンの『脳波』という作品です。
これは、ある日を境に地球上の全生命の知能がアップしてしまう、というお話です。
で、読む前はミミズだってオケラだってアメンボだってみんなみんな知能が上がるんだ!と思い込んでいたんですが、さすがにそんなことは無くてですね、兎だって豚だって馬だって象だってチンパンだってみたいな話でした(笑)
まず、導入部がヤバい!罠にかかったウザギの心理描写から始まるわけですよ!「ヤバイ、なんか俺、人間の作った罠に嵌ったっぽい?」みたいな。兎にそんな知性ないから!これから人間に食べられちゃう?とか考えてシクシク泣いたりしないから!リアルがこんなんだったら猟師さんたちみんな狩りできなくなっちゃうわ!みたいな(笑)
次に小学生が九九の宿題やってたら唐突に一次関数のグラフ書きたくなってくるわけです。なんか直線になった!で、xを二乗してみたら線が曲がってきた!こんどは、yを二乗したら円になった!何これ、オモロイ!みたいな(笑)
ここまでで、この本の開始4ページくらいです(笑)
どうしてそういうことが起きるかというと、実はいままで地球上には脳の神経伝達電流を阻害する力場に捕らえられていて、ある時、偶然その影響範囲から太陽系が抜け出すことで脳の働きが活性化するようになったのです。
この知性化、人によって程度に差があって、知恵遅れの人はグンとアップするんですが、大学の研究室に居るような頭の良い連中はさほどでもないんですね。昨日まで悩んでいた問題を解決する良いアイディアが今日になって突然浮かんだんだよ、みたいな程度。ところが知恵遅れの青年は夜空を見上げて「ヤバイ!宇宙ヤバイ、星がいっぱいありすぎるよ!宇宙ヤバイ、広すぎるよ!どんだけ広いんだよ!?」とか深く考え出しちゃうわけです(笑)
地球上の人類や動物の知能が一気にアップしたことで、実は色々なパニックが起こるわけですが、その様子はニュース記事の見出し形式でテンポ良く表現されたりしてます。
で、この作品は3つの異なる視点で構成されてます。一人は物理学者で、この人が中心となって科学的な視点でこの現象が描かれます。もう一人はニューヨークの市長さんで、都市とか国家とかがどうなっていくかがこの人の視点で描かれます。最後の一人は農場に勤める知恵遅れの青年で、農場の動物たちがどうなるかが描かれます。
その3つのパートで、個人的には農場の動物たちのパートが秀逸に感じてます。農場の犬畜生も人間並みの知性が芽生えて、自ら檻や柵を抜け出して大脱走するわけです。動物園の動物とかも一緒です。チンパンなんでもうバールの様なモノを振り回して「俺にも人間と同等の権利を要求するぞ、ゴルァ!」みたいに大暴れするわけです。で、一度は脱走するわけですが、頭が良くなってるので、人間からエサをもらわないと生きていけないことに気付いて戻ってくるわけです。
中身はジャングル大帝の動物なみになってても人語を話せるわけではないので身振り手振りで「エサくれ!」みたいな要求をしてくるわけですが、そこで農場の知恵遅れの青年と知性化した動物たちとのファースト・コンタクトもの?みたいなシチュエーションが描かれるんですね。素晴らしい!感動的です(笑)
他には科学者のパートで今の人類より一段階上の階層に知能アップした人類がどんな行動を取るかとか、市長さんのパートで人々がどんな社会を作っていくか、といったことが演繹的に描かれていきます。絶対面白いと思うのでみなさん、是非この本を手にとって確認して欲しいと思います。
それではこの辺で『脳波』の紹介を終わりたいと思います。どうもありがとうございました。

■質疑応答

■それってアルジャーノンよりも先ですか?
→1954年の作品なので先だと思います。(短編版の発表が59年なので正解)
■頭が良くなるのは一気にですか?
→最初大きいのが来て、それからじわじわアップしてやがて行き止まりが来ます。
■虫は賢くなりますか?
→冒頭で云った通りミミズやオケラはダメです。作中では大脳のある生物だけといわれています。
■鳥はどうですか?
→昼の企画で鹿野司さんが紹介していたハミングバードとかスゴかったですね。残念ですが作中では描かれていません。
■u-kiさんの大好きな鯨やイルカとか、海の生き物はどうですか?
→それはデヴィッド・ブリン先生が<知性化>シリーズでやっているのでそっちで読んでください。この作品では農場が舞台なので家畜とか犬とか、動物園から脱走してきた動物だけが描かれていますね。パオパオ象さんとか。
■英語ではなんというタイトルですか?
→「BRAIN WAVE」です。
■「ぎんせ」ですか?「ぎんぜ」ですか?
→私は「ぎんせ」派ですw これは青背版もあります。そっちは水鏡子先生の解説付きでお得です。

自分の発表はustで配信されたわけだけど、自分では見ることができなかったので全部記憶に基づいて書いている。
配信を見たり、会場で発表を聞いたりした方で気付いた点などありましたらご指摘くださると俺が喜びますw


ポール・アンダースン『脳波』感想

読む前にはミミズだってオケラだってアメンボだってみんなみんな知能が上がるんだ!と思い込んでいたが、さすがにそんなことは無かった(苦笑)
兎だって犬だって豚だって馬だって熊だって象だってチンパンだってみたいな話だったw
普通、進化っていうとどんなイメージですかね?ポケモンの進化!みたいに生物学的なものとか?
一昔前、UFOや超能力とSFが仲が良かった頃には、人類は進化して脳の力がアップした結果、超能力者みたいなのになる、という説がまかりとおっていたんですよ!まぁ、ガンダムニュータイプとかもその一種ですよね。スランだ、殺せ!みたいなのとかw
でも、チンパンと人の違いって頭が良いか悪いかみたいなのだけじゃね?というデヴィッド・ブリンの知性化的なのを進化と見る向きもあるんじゃないかな?と、個人的には思うわけ。
あ、鉄が喰えるように進化するという日本アパッチ族みたいなのもありますがw
あと、21世紀的な進化論、すなわちシンギュラリティとかポストヒューマン的なのはもう『スティーヴ・フィーヴァー』1冊読んでおけばいいよ!と思うので割愛(苦笑)
なので、1950年代、アポロが月に行く前の進化ってことでこの『脳波』を紹介してみたい。
まず、導入部がヤバい!罠にかかったウザギの心理描写から始まるわけですよ!「ヤバイ、なんか俺、人間の作った罠に嵌ったっぽい?」みたいなw
兎にそんな知性ないから!シクシク泣いたりしないから!リアルがこんなんだったら猟師さんたちみんな狩りできなくなっちゃうわ!みたいなw
次に小僧!九九の宿題やってたら唐突に一次関数のグラフ書きたくなってきた、直線だ!そしたらxの二乗について考えたら線が曲がってきた、ヤバイ!yを二乗したら円になった、何これ、オモロイ!みたいなね、超愉快っぽいでしょ?(笑)
そしてチンパンですよ!動物園大脱走状態!バールのようなものをもってウキャー!ウキャー!ですよ?虎もガオガオ!象はパオパオ!ですよ?もう手が付けられません。人間ども、檻から出せや、(#゚Д゚)ゴルァ!!状態に。
犬畜生も一大事です。農場大パニック!豚もかんぬき外して大暴走ですよ?あしたのジョー大脱走、助けて力石状態に!(苦笑)
都市では若者がモノを買うのをやめます。若いものの××離れですよ。21世紀の俺らも1950年代の人から比べたら知性化してるんじゃね?とかね。
共産圏では制度大崩壊。クーデターも起きるしICBMも発射されちゃうわけです。でも、西側の科学者も知性化してるんでバリアで守って無事!みたいな話もあるんですけどねw
そして人類は宇宙へ向かうわけです。宇宙キタ――(゚∀゚)――!!でしょう。宇宙へ行きたい気持ちを我慢できなくなるので宇宙船作りながら計算しながらの旅です。コンピューター、遅い、遅い!みたいな。そろばん使って帰還できた!とかいうクラーク先生の短編の宇宙飛行士が泣き出すような内容です!(笑)
で、ネタバレなんですけど、宇宙には人類並みの世界しかなくて、進化した人類並みの人はいなかった、とかいうオチ!マジカヨ?(苦笑)アメリカ人、宇宙をナメきってますねwww素晴らしい。僕らは宇宙に旅立つので、地球は君らのものだ、とか。
新興宗教オレ教とか大流行。大川隆法先生大人気!みたいなのも起こるw
面倒だから労働は全部ロボにやらせろよ、とかいって放棄された労働に対する解決策が、じゃあ娯楽TVは作業現場でだけ流せ、とかいう結構斬新な方法でそれも笑える。
なんか主人公夫婦の愛の物語、みたいなのもあるんだけど正直どうでもいいです。男に都合の良い話になってるんでw
それよりも、白痴と動物たちが作る新しいコミュニティの誕生!とかの方が感動的で良いやね。
いやいや、それよりも問題の頭が悪くなる力場ですよ!頭の血行を悪くしてしまう磁場!恐ろしい!
で、頭の良くなった連中にはその状況を改善するには昔に戻すしかない、って、その磁場を発生させる巨大装置を衛星軌道上にあげようとしたりとかして結構燃えますwショッカーとかもそれくらいやれよ。そしたら俺も協力するよw
んー、そんな感じです。俺は銀背版しか持ってないけど、これはハヤカワ文庫SFにもなってます。水鏡子先生の解説とか読むために探してもいいかな、と思っていますよ。

いろいろ無駄な部分を切って捨ててますな。
テーマである「進化」に対する予防線は昼企画の「サはサイエンスのサ」で丁度進化の話をしてくれたので、質疑でつっこまれてもはねのける自信があったし、作品の内容についてバッサリとカットしたのは観客に「読みたい」と思わせるためで、結果としては成功したんじゃないかと思う。
上の実際にしゃべった内容と比べてみてね。